【ハナヤマ通信】368 医者が医者を批判するとき
おかげさまで当メールマガジンは、先月、創刊14周年を迎えることができた。
そこで、既刊の367回分すべてに目を通してみたら、内容が重複している部分も見られた。
私としては、その都度新鮮な気持ちで書いているので、整合性はとれているつもりだ。
重複しているのは、その話が何度強調しても、し足りないからでもある。
繰り返し取り上げている話題の一つに、近藤誠氏の「がんもどき理論」がある。
これからの時代、がんと全く無縁で生きられる人はいない。
家族・友人・知人のうち、だれかは必ずがんになる。
そこで、がんという病気をどうとらえるかを考える上で、非常に参考になると思うので、彼の理論について、今一度、書いておきたい。
先日、彼の『 がんは治療か放置か、究極対決 』という対談本を読んだ。
通常、医師の対談本といえば、お友達同士の会話をまとめたようなものばかりである。
ところが、この対談相手はいわば論敵であり、お互い正反対の意見を戦わせて、決着をつけようという主旨だった。
どちらかが論破されれば、地位と名誉どころか、患者からの信頼まで失う羽目になるのだから、真剣だ。
これまでにも、何人もの医師が、近藤誠批判をあちこちで展開してきたが、どれも陰口ばかりで、一度も直接対決には至らなかった。
だから、この対談相手である東京女子医大がんセンター長の林和彦医師は、ある意味、勇気がある人なのだろう。
医学界から総攻撃を受けている近藤氏の「がんもどき理論」については、当誌では度々登場しているので、詳しい説明は省く。
要約すれば、がんには本物のがんとがんもどきの2種類があり、本物のがんなら治療しても治らないし、がん(この場合は固形がん)の治療を受けても縮命効果しかないので、治療を受けるべきではない。
一方、がんもどきなら死に至ることはないので、これまた治療する必要はない。
さらに、がんを早期発見しても救命率は向上しないのだから、がん検診も意味がない、という大胆な理論である。
医学の世界では、医師同士が個人的にいがみ合うことはあっても、公の場で批判するようなことはない。
これは医学界だけでなく、利権を共有する業界ではすべて同じだろう。
しかし、近藤氏に対してだけは、医学界が集中砲火を浴びせ続けている。
こんなことは前代未聞である。
よほど業界のタブーに触れなければ、ありえないはずだ。
では、そのタブーとは何か。
それは、がん治療もがん検診もムダだ、といってしまうことなのだろう。
だが、今までにも、従来のがん治療を否定した医師なら大勢いたはずだ。
健康食品や漢方薬業界の片棒を担いだり、爪を揉めばがんが治るなどといってみたり、とんでもなく非科学的な持論を展開する医師もいた。
しかし、近藤氏の場合は、彼個人としての意見ではなく、手術・抗がん剤治療の延命率などの最新データに基づいて、あくまでも科学的に発言しているところに、彼らとの大きな違いがある。
逆にいえば、あまりにも正直に本当のことをいってしまったことが、医学界の虎の尾を踏む結果となったのか。
以来、彼は業界内の秘密をばらした裏切り者、日本医学界のスノーデンとなったわけだ。
近藤氏が批判しているのは、主に手術や抗がん剤などのがん治療と、がん
検診に対するものだから、それが気に食わないというなら、がん治療とがん検診こそが、医学界最大の利権なのだろう。
電力会社が、電気料金を値上げすることに全く痛痒を感じないのと同様、医師は、患者の不利益に対して頓着していないように見える。
しかし、自分たちの利権の侵害には敏感だ。
もちろん、表向きは、がん治療・がん検診を否定すれば、助かる人も助からなくなるから、近藤誠の発言は看過しがたい、という義憤にかられた形をとって批判している。
ところが、彼らの近藤氏に対する批判本のいくつかを読んでみると、論点をずらした姑息なものが多い。
何よりも、近藤氏の本の内容を、正確に読み取れていない批判が目につく。
意図的にわからないふりをしている気もするが、近藤氏が最新の論文を読み込んで、そのデータを根拠にして、理論を緻密に構成しているのとは対照的なのだ。
今回の対談本にしても、林氏は本を読んだといっているが、理解できていないと思わせる点が随所に見られた。
彼は、論戦相手としてはあまりに勉強不足であり、言葉もあいまいだ。
しまいには近藤氏から、「林さんは医学者なのだから、『感じている』とか『信じている』などという根拠不明なことを言わず、もっと具体的な指摘をされたらよかったのに」とたしなめられる始末である。
これでは論破するどころか、両者の勝敗はいうまでもない。
この本に限ったことではないが、近藤誠批判はすべて、がん治療・がん検
診の有効性についての議論に終始している点が、読み手の私には納得できない。
その程度の議論なら、単に根拠となるデータをつき合わせれば、自動的に結論が出る。
何も、近藤氏個人に対して、論戦を挑む必要などない。
わざわざ医学論を戦わせるのなら、彼の「がんもどき理論」そのものこそ、主題とすべきなのである。
もし仮に、がんに本物のがんとがんもどきの違いがあるならば、彼の理論は画期的であり、従来のがん治療・がん検診は、完全に否定される。
逆に、両者に全く違いが見られないなら、彼の今までの発言は否定されるのだから、論点はそこに絞られるべきだ。
ところが今の医学のレベルでは、がんもどきの存在を実証することも否定することも不可能だ。
かのワインバーグですら、「がんはカオスの世界である」と嘆いていたように、がんについては、いまだにわからないことが多すぎるのである。
近藤氏自身も、本物のがんもがんもどきも同じ遺伝子であるから、両者を識別することはできないといっている。
また、免疫が、がん細胞を正常細胞と識別できないから、がん細胞を攻撃できないのであり、免疫が、がん細胞を早期から認識さえしていれば、がんは成長できずに、すでに消去されているはずだと考えられている。
しかし、私にいわせれば、免疫は、がん細胞と正常細胞を識別できているのである。
がん患者の患部に近い部分に触れてみると、がんを中心にして、明らかにリンパの腫れが広がっている。
このことから、免疫は、がん細胞を異物だと認識していることがわかるのだ。
ところが、異物だとわかっていながら、攻められない。
つまり、免疫力のうち、攻撃する能力だけが低下している状態なのだ。
一般的に、免疫力の話をするときには、この識別能力と攻撃能力とを、一緒くたに論じてしまっているのが、誤解の元である。
攻撃能力の低下に、「アシンメトリ現象」が関与している話は、以前にも書いたのでここでは省くが、今重要なのは、免疫ががんを認識しているという点だ。
実に簡単な話で、患部周辺のリンパが腫れているかどうかを確認さえすれば、それががんであるか、がんでないかがわかる。
すると、検査上はがんだと診断されたなかに、がんもどきを見つけることができる。
これで、「がんもどき理論」の実証も可能になる。
だが、がんとがんもどきを識別できたとしたら、それはすでに「がんもどき理論」ではなくなる。
両者の違いが識別できないから、がんと「がんもどき」なのであって、識別が可能になった時点で、それは、がんと「がんではないもの」との2つに分けられることになるからだ。
この事実は、医学界にとって大変な衝撃となるだろう。
近藤氏のいう通り、従来のがん治療もがん検診も、全く無効だったことがわかるだけではない。
そこからは、かなり正確な誤診率まで、導き出されてしまう。
また、これまで治療で治ったとされてきたがんは、元々がんではなかったということになるし、治療中に亡くなった人たちも、がん死ではなく、治療死だった可能性が、否定できなくなるのだ。
実はすでに、米国がん協会では、米国医学界が、がんではないものをがんだと誤診・過剰診断してきたこと、それに付随して過剰治療してきた過ちを認め、その数字を発表することで、がん治療のスタンダードを大きく変えようとしている。
さらに、がん検診も無意味であるとして、全否定する流れになっているという。
それなのに、いまだに日本の患者たちの多くが、この事実すら知らされず、がん検診・がん治療を受け続けているのである。
しかし、日本においても現場の医師たちは、自分たちが行っているがん治療の虚しさを、常々実感しているはずだ。
そして、だれもががん治療そのものに対して、少なからず疑いを持っている。
だからこそ、自分ががんになったら、がん治療など受けない、と明言する医師は多い。
なかには、がん治療を受けないのは医師に許された特権だ、とまで言い放つ医師もいる。
それが、多くの医師の本音だろう。
だが、それが本音であっても、患者に治療がムダだなどといってしまうのは、利権を共有する医師仲間への裏切りになる。
そんなことは許されるべきではない。
その思いが、近藤誠だけを、かくも執拗に攻撃し続ける理由に他ならないだろう。
(花山 水清)
注:ここでがんといっているのは、主に固形がんのことであるが、近藤誠氏はがんの種類を細かく分けて論評しているので、詳細はぜひ彼の著書で直接確認しておいていただきたい。
『がんは治療か放置か、究極対決』近藤誠・林和彦著
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■記事提供/花山水清 ■編集・発行責任/有限会社花山水清
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