【ハナヤマ通信】362 寝違えとめまいと脳梗塞との関連性
先月、めまいの専門医である二木隆先生から、近著の『 臨床最前線で診るめまい 』(医学と看護社)という専門書をいただいた。
二木先生は、体調のせいもあって、最近は臨床からは少し離れておられるのだが、その間に、今までの研究の集大成として、この本をまとめ上げられたようだ。
本書には、めまいに関する既存の書籍と違って、たいへん興味深い論文が数多く盛り込まれていた。
特に、頚部痛とめまいとの関わりについて、深く掘り下げて研究してあった。
二木先生の専門は、耳鼻科である。
通常、耳鼻科におけるめまいの研究であれば、それが耳鼻科の範囲から外れることはない。
それは、他科の医師であっても同様で、自分の専門領域を出て研究することはあまりないのである。
そのため、その内容は必然的に、重箱の隅をつついたようなものになりがちだ。
ところが二木先生は、めまいの原因を、頚椎ヘルニア、変形性頚椎症、ムチ打ち損傷など、専門分野の外にまで広げて追究しておられる。
これらの内容は、めまいに対する私の従来の考察を、より確信へと導いてくれるものだった。
実は、めまいも、頚椎ヘルニア・変形性頚椎症・ムチ打ち損傷による頚部痛も、ともに頭蓋・頚椎のズレが原因である。
このことから考えて、めまいと頚部痛とについては、私も以前からその関連性を疑っていたのだ。
先日も、朝起きたら首が痛くて、食事もできないという高齢女性がいた。
この方は高齢者施設に入居中で、施設の職員の方が整形外科に連れていこうとしていた。
しかし本人は、病院に行くよりも、先に私に診てもらいたいといったようだ。
そこで、職員の方から私のところに連絡が来たのである。
この方のことは、今までにも何度も診ていたので、電話で症状を聞いただけでも、重大疾患でないことは十分に予測ができた。
診てみると、案の定、彼女の首の痛みは、単なる寝違えのようだ。
どうやら、前日に首に負荷をかけるような体操を、熱心にやりすぎたのが原因らしい。
寝違えとは、正式には、頚椎捻挫(けいついねんざ)といい、筋肉痛の一種だと考えられている。
しかし実際には、寝違えは、頭蓋や頚椎の複合的なズレが原因だ。
だから、そのズレさえ矯正すれば、寝違えによる痛みも解消するのである。
だが、彼女の場合は、ズレ幅がかなり大きいうえ、首の痛みと同時に、軽いめまいの症状も出ていた。
そのような状態で、いきなりズレを戻すのは危険だ。
大きくズレている頭蓋や頚椎を、一気に元の位置まで戻しきってしまうと、脳への血流が急激に変化する。
その結果、一時的には、めまいの症状を亢進させる危険性があるのだ。
そして、最悪の場合、その血流の変化が脳梗塞の引き金にもなりかねないので、高齢者の場合は、特に注意が必要である。
しかし、今の程度の症状なら、完全に矯正しきらなくても、数日もすれば気にならないレベルになるはずだ。
ここであえて、危険をおかす必要はない。
そう判断して、今回は少しだけの矯正に留めた。
そのことを、本人にも施設の職員の方にも説明しておいた。
あとで聞いた話では、やはり、数日で症状は消えたようだ。
さて、今回の彼女の場合は、首の痛み(頚部痛)が主訴であり、めまいは付随的な症状であった。
逆に、めまいが主訴で、同時に頚部痛を訴える人もいる。
どちらにしても、頭蓋と頚椎のズレが原因である。
また、頭蓋・頚椎がズレると、首の痛みとともに、首の可動も悪くなる。
これが寝違えの症状となる。
もう少し詳しく見てみれば、頭蓋・頚椎のズレは、首の左右にある頸動脈や椎骨動脈に、機械的なダメージを与えていることがわかる。
椎骨動脈に対する刺激は、その先の脳底動脈にも影響を及ぼす。
また、頸動脈や椎骨動脈は、脳へ血液を運ぶ最も重要な血管であるから、これらの血管に機械的な力が加わると、脳への血流が阻害され、脳は虚血状態に陥る。
これはいわば、首を締められたのと同じ状態だ。
それで、めまいが出現するのである。
このような病態を、医学的には一過性脳虚血発作ととらえることもある。
一過性脳虚血発作の原因は、検査してもわからないほど、微小な血栓によるものだと考えられている。
そのため、一過性脳虚血発作による高齢者のめまいは、脳梗塞の前触れともいわれているのだ。
すると、めまいが頭蓋・頚椎のズレによるものであれば、同じズレによって起こる寝違えの首の痛みも、脳梗塞の前触れだと考えるべきではないか。
そもそも脳梗塞は、高血圧や糖尿病、高脂血症などといった、生活習慣病による動脈硬化が最大の原因だとされている。
しかし私は、動脈硬化そのものも、骨のズレによる機械的な刺激が根本原因であり、生活習慣病は二次的な要因にすぎないと考えている。
要するに、寝違えなどを含めた頚部痛も、めまいも脳梗塞も、頭蓋・頚椎のズレによる一連の症状なのである。
しかも、これらの症状は、その発症時刻が共通している点も見逃せない。
まず、寝違えといえば、たいてい、朝の寝起きに起こるものだ。
めまいも、朝、寝床から起き上がろうとしたら天井が回っていた、という例が多い。
そして、脳梗塞の発症も、やはり夜間から早朝にかけての時間帯に集中しているようだ。
これらは、たまたま発症時刻が似ているのではない。
全て、頭蓋・頚椎のズレという、原因そのものが共通しているからなのだ。
その根拠となっているのが、骨のズレと自律神経の働きとの関係である。
眠りから覚めるとき、自律神経は、副交感神経から交感神経に切り替わることが知られている。
また、椎骨動脈の血流は、交感神経のみによって調整されている。
そして、骨のズレという現象は、交感神経の機能を亢進させる作用をもつのである。
これらの事実を重ね合わせると、寝違え(頚部痛)、めまい、脳梗塞の発症時刻が共通している理由は、骨のズレによって引き起こされた、交感神経の機能亢進が、深く関わっているからだとわかるのだ。
この仕組みについては、いずれしっかりと考察したいのだが、医学的にも早急に検証されるべきだろう。
しかし現在は、医学界でも一般でも、頚部痛とめまいと脳梗塞は、それぞれが別個の病態としか考えられていない。
そのため、それぞれの症状では、受診する科さえ違うのが常識だ。
だがそこに、骨のズレという要因を加味すれば、既存の常識などあっという間にくつがえる。
医学の世界では、従来の医学常識を疑うことは好まれないようだが、本来、常識をくつがえす視点なくして、医学の進歩など望めまい。
頚部痛にしても、それが脳梗塞の初期段階であったなら、早いうちにそうと気づけるかどうかは重要だ。
脳梗塞というのは、発症から数時間で治療が開始できるかどうかで、明暗が大きく分かれる。
その後の人生は、天と地ほども違うものになるのだ。
確かに、高齢になるとだれでもあちこち痛いものではあるが、首の場合だけは、「たかが寝違え」と侮ることなかれ。
これだけは、ご記憶いただきたいところなのである。
(花山 水清)
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