【ハナヤマ通信】359 がんはなぜ痛くないのか

あるとき私は、骨のズレには2つの種類があることに気がついた。

 

1つは、腰痛に代表されるような痛みを出すタイプのズレ、もう1つは、がん患者の体に見られるような、痛みを出さないズレである。

 

要するに、ズレには、発痛と鎮痛という相反する性質をもつ、2つのタイプがあるのだ。

 

 

 前回の当誌では、骨のズレは、筋肉がひきつった状態だと説明した。

 

解剖学者の三木成夫(1925-1987)はその著書のなかで、「およそ筋肉と名のつくものであれば、骨格筋であれ、内臓筋であれ、血管筋であれ、それらの収縮は、例外なく痛みにつながる」と断言している。

 

ところが実際には、極端なズレ、すなわち筋肉が強くひきつっているのに、全く痛みを出していない場合があるのだ。

 

痛みを全く出さないひきつりというのは、三木成夫の常識とは、かなりかけ離れた現象である。

 

がんの発生につながるほど極端なズレなのに、なぜ痛くないのか。

 

これは、私にとっても長年の疑問であった。

 

もしかすると、がんに関係するタイプのズレには、何らかの鎮痛作用があり、そのメカニズムは、がんの発生そのものにも、深く関与しているのだろうか。

 

 

 そもそも、がんというのは、痛みなどの自覚症状が現れにくい病気である。

 

そのため、たまたま受けた検査でがんが発見されたときには、すでに末期の状態まで進行していた、などということが起こる。

 

しかし、私はがん患者の体には、共通した特徴があることを見つけた。

 

彼らの体は、骨格筋が異常に緊張した状態にあり、また、外からの刺激(体性感覚刺激)に対して、反応が鈍くなっている。

 

つまり、体が固くこわばっていて、指で押してみても、普通の人のようには痛みを感じないのである。

 

そして、そういう人の体には、痛みを出さないタイプの大きなズレがあり、がんは必ず、その神経支配上に発生しているのだった。

 

 

 ところが、当初は全く症状を出さなかったがんも、末期になると、一変して強い痛みを出すようになることが知られている。

 

このことが、がんという病気が最も恐れられている理由でもあるが、最近、このがんの痛みに関して、近藤誠や中村仁一といった著名な医師が、これまでの常識をくつがえす発言をしている。

 

彼らは患者たちのデータを元にして、がんという病気は、積極的な治療を受けなければ、末期であろうとも痛みなどの苦しみはないと断言しているのだ。

 

一般のがん専門医であれば、必ず患者のがんを治療するので、がんを全く治療しなかった場合のデータなど持っていない。

 

しかし、近藤医師たちは、激痛などの症状が起こるのは、病院で手術・放射線・抗がん剤などの治療を、積極的に行ったからだと結論づけている。

 

 

 確かに、このような治療方法がなかった時代には、現代ほど、がんという病気は恐れられていなかった。

 

逆に、昔なら老衰だといわれて安らかに死んでいった人たちの多くが、実はがん死だっただろうといわれている。

 

それぐらい、高齢者にとって、がんは楽に死ねる病気だったのだ。

 

それがなぜ、病院で積極的な治療を受けると、地獄の苦しみを味わうことになるのか。

 

この疑問に対して、明確に解答できる医師はいない。

 

 

 通常、がんによる痛みとは、がんが内臓器官や神経に浸潤したことによる痛み・骨転移による痛み・血管閉塞による痛み・手術の神経損傷の痛み・抗がん剤や放射線治療の副作用による痛み、などである。

 

しかし、このどれもが、がんの痛みの直接的な原因であるとは考えにくい。

 

また、がんの痛みというのは、痛みの度合いが、日々エスカレートしていく性質がある。

 

その理由として、成長したがんが、知覚神経を巻き込むからだと説明されることが多い。

 

だが、在宅緩和ケア専門医の大岩孝司(『がんの最後は痛くない』著者)は、1000人以上のがん患者を看取った経験から、患者の半数は最期まで痛みを出さなかったといっている。

 

実際のところ、ひたすら成長を続けるがん細胞が、知覚神経を巻き込まないなどということはありえない。

 

がん細胞が知覚神経を巻き込むことで痛みが出るのであれば、がんが進行した患者は全員、必ず激痛に襲われることになる。

 

そうはならないのだから、これが痛みの原因ではないということだ。

 

 

 以前の当誌でも書いたように、私は、がん患者が訴える痛みの最大の原因は、骨のズレだと考えている。

 

例えば、がんの骨転移による痛みは、病院でなかなか制御できないといわれるが、実は、その痛みの多くは、ズレを戻すことでほぼ解消してしまうのだ。

 

しかし、これでは私の論理に、重大な矛盾が生じることになる。

 

がんの発症に関わっている骨のズレは、痛みを出さないタイプだったはずだ。

 

それがなぜ、一転して痛みを出すようになったのか。

 

何が体内で変化したのか。

 

私はその原因を、抗がん剤の影響ではないかと考えた。

 

 

 今まで、私のところに痛みで来院したがん患者たちは、皆、抗がん剤治療を経験していた。

 

聞いてみると、痛みが出現したのは、抗がん剤を投与された後からだという。

 

彼らの体の印象からも、ある種の抗がん剤が、ズレの痛みの抑制機能を、解除する働きをしていることが感じ取れた。

 

つまり、抗がん剤が、寝た子を起こしたとしか考えられないのである。

 

 

 もちろん、その痛みは、抗がん剤の副作用による痛みとは全く違う。

 

痛みの原因は、がんを発生させるほどの極端なズレなのだから、それが一旦、痛みを出すようになれば、言葉で表現できないほどの激痛になることは、想像に難くない。

 

しかも、抗がん剤治療を受けると、患者の多くは骨格筋の緊張が増すため、筋肉のひきつりが一層強まる。

 

そうしてますますズレ幅が大きくなって、痛みも激しさを増していくのである。

 

 

 実は、モルフォセラピーにおいては、がん患者が痛みを感じやすくなること自体は、プラスの作用だと考える。

 

そうなると、抗がん剤によるズレの発痛作用も、あながちマイナス面だけではないのかもしれない。

 

だが、抗がん剤に使われているのは、元々は細胞を殺すための毒薬であり、劇薬扱いの薬である。

 

そのために、今まで多くのがん患者が、がんそのものではなく、抗がん剤の毒性で死んでいるのだ。

 

もし、抗がん剤から毒性を取り除き、ズレの発痛作用のみを利用できるなら、より効果的ながん治療が可能になるかもしれない。

 

 

 今はどうだか知らないが、ごく最近まで、日本のがんの疼痛治療は、先進諸国で最悪だといわれていた。

 

その分、がんの疼痛に関しては、少なからず研究されてきたことだろう。

 

しかし、がんがなぜ痛むのかもさることながら、なぜ、初期には痛みを出さないのかということが、がん研究の最大のポイントではないだろうか。

 

 

 最初のうち、がんには痛みなどの自覚症状がないことは、医師を含めてだれもが知っている。

 

だが、放置したがんが、患者の命を奪うような段階になっても、まだ痛みがないとしたら、そこにはいったい、どのような鎮痛作用が働いているのか。

 

このメカニズムを説明できる人はいない。

 

それどころか、こんな不可解な現象を、だれも疑問にすら思っていない。

 

かくいう私も、長い間、全く疑問を持たずにいた。

 

もっと早く気づいていれば、それなりの対処ができた症例もあったと思う。

 

そのことが悔やまれる。

 

 

 そもそも、医学というのは、症状のある疾患に対してしか、目を向けにくい。

 

しかし、皮肉なことに、重大疾患の多くは、自覚的な症状がほとんどない。

 

ではなぜ、症状がないのか。

 

このことこそ、現在の医学で、最も抜け落ちた視点かもしれない。

 

特に、がんの鎮痛のメカニズムを解明することは、がんという病気の成り立ちを知ることでもある。

 

それが、がんの予防、並びに治療の、重大な糸口になるはずだ。

 

さらに、鎮痛タイプのズレのメカニズムまで解明できれば、がんだけでなく、さまざまな疾患の解決への助けにもなる。

 

この道の先には、大きな希望があると私は考えているのである。

 

                             (花山 水清)

 

 

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【3】今 月 の 雑 感
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 ●前回の記事内でお伝えした「ズレの組み合わせ数」の訂正でございます。

 

                正解は

 

           764,411,904通り

 

            なんとっナナオク突破!!

 

 

  ご教示くださったM先生、まことにありがとうございましたm(_ _)m

 

 

 ●タライマワシ

 

  先月、ある相談事のために、ご近所の方たちと一緒にお役所に行きました。
 対応してくれた人は、とにかく「この部署ではそれはできません」の一点張
 りです。かといって、他の部署を紹介してくれといっても、黙っているだけ
 で、お役所名物の「たらい回し」すらしてもらえませんでした。(ハナヤマ)

 

 

 

  ★次回「ハナヤマ通信」は、10月5日(水)午前10時配信予定です★

 

 

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