【ハナヤマ通信】352 胃がんについて考える

 日頃、あまり医療に縁のない人にとって、医学の世界というのは、いまだに象牙の塔と呼ばれていた頃のような、古めかしいイメージのようだ。

 

そのため、いざ自分や家族が重大疾患になると、いきなり盲信型の権威主義に陥る傾向がある。

 

その結果、皆、同じように、後味の悪い結末を迎えることになってしまう。

 

 

 当院に来られているAさんから聞いた話である。

 

この方の親戚で、まだ30歳になるかならないかのB子さん(仮名)に、病院の検査で胃がんが見つかった。

 

B子さんの父親は愛娘のために、必死につてをたどって、胃がん治療の権威といわれる病院を選択し、治療を開始した。

 

以来、Aさんからは来院のたびに、B子さんの治療経過の報告を受けた。

 

 

 その権威といわれる病院では、胃がんは早期の段階であり、まだ転移も見られないという診断だった。

 

そして、「今なら胃の3分の2を切除すれば、がんは治る」という医師の言葉に安堵して、B子さんは手術に踏み切ったらしい。

 

もちろん、私はB子さん本人に会ったこともないので、一般論的な話しかできないが、この医師の話には、何となく腑に落ちない点があった。

 

しかし、伝聞だけでは詳細がわからないので、何とも判断しようがない。

 

ただ、後から転移が見つかることもよくある、ということだけは伝えておいた。

 

 

 するとやはり、術後の早い時期に、がんが全身に転移していることが確認された。

 

担当の医師は、今度は、「抗がん剤でなら助かる可能性がある」とほのめかしたようだ。

 

そこで、B子さんの父親はその医師に、「自分の家族でも、同じ治療を選択するか」と訊くと、医師が深くうなずいたので、抗がん剤治療を受けさせることにしたのだという。

 

 

 この話を聞いて、残念ながら、一般の人の、医師に対する認識の甘さを痛感した。

 

医師に、「自分の家族ならどうするか」と訊いてみても、まず、建て前的な回答しか返ってこないものだ。

 

この場合はせめて、「もしも、自分が患者ならどうするか」と訊いてほしかった。

 

 

 もう今から20年程前になるが、ある外科医が書いた、胃がんの拡大手術を礼賛する本を読んだことがある。

 

その当時ですら、イギリスやオランダでは、胃がんの手術で、リンパ節を大きく廓清(かくせい)しても、生存率は向上しないといわれていた。

 

その上、拡大手術を行うと、術後の患者のQOL(生活の質)は、著しく損なわれるのである。

 

しかし、その頃の日本では、まだ、どこまで広範囲にリンパ節を廓清するかが、胃がん手術における外科医の腕の見せどころだったのだ。

 

 

 ところが、ある日、この著者本人に胃がんが見つかった。

 

そして、あれほど勧めていた拡大手術を、自分は受けなかったのである。

 

「なぜ、患者に行ったのと同じ手術を受けないのか」という批判に対して、「医師の特権として、この程度のわがままは許されるはずだ」と、当然のように書いていたのには、唖然とした。

 

ここでも、医師と一般の人との感覚の違いを思い知らされたのだった。

 

 

 さて、B子さんの話にもどろう。

 

彼女は、医師の勧めるまま、さまざまな抗がん剤治療を受けてみたが、結局、何の効果も見られなかった。

 

担当の医師は、「やるだけのことはすべてやった」といって、遠回しに転院を示唆しただけで、それ以後、彼女の病室には、全く顔を見せなくなったと
いう。

 

やむを得ず、B子さんは自宅で療養し、がんの発見から2年の闘病を経て、32歳で亡くなった。

 

 

 これは、あくまでも、B子さんの親戚であるAさんを通じての話なので、どこまで正確かはわからない。

 

しかし、この内容自体は、がん治療の周辺で、ごくごく一般的に見聞きする話なのである。

 

では、B子さんは、がん治療では最高権威の医師が、助かると断言したのに、なぜ助からなかったのか。

 

しかも、早期のがんだと診断されていたのに、である。

 

おかしな話ではないか。

 

 

 胃がんといえば、元々日本人に多いがんであった。

 

統計を見てみると、1955年以降、胃がんの年齢調整死亡率は下がり続け、2000年前後で男女ともに、他のがんの死亡率と大差なくなっている。

 

他のがんの死亡率は上がっているのに、なぜ、胃がんだけが下がり続けたのだろうか。

 

このデータだけを見ると、胃がんの早期発見・早期治療が、功を奏したといってもよさそうである。

 

 

 ところが、ここで目を転じて、年齢調整死亡率をアメリカ、イギリスと比較した統計を見てみると、日本だけが、異常に胃がんの死亡率が高いままのである。

 

日本は、アメリカやイギリスよりも、胃がん検診を徹底してきたはずだ。

 

それなのに、検診で早期発見しても、肝心の死亡率は、他国と比べて、自慢できるような数字ではないのだ。

 

 

 しかも、なぜ胃がんだけ、死亡率が突出しているのか。

 

日本人には胃がんが多かったから、他の国よりも、胃がん手術などの治療レベルは高い、と喧伝していたはずである。

 

これでは、ますますつじつまが合わなくなってくる。

 

これはつまり、日本の胃がんに対する標準治療は、世界の基準とは違っている、ということではないだろうか。

 

これまで、早期発見・早期治療という名のもとに行ってきた、過剰診断・過剰治療こそが、日本人の胃がんの死亡率を引き上げているのではないのか。

 

 

 そう考えれば、早期の胃がんだったはずのB子さんが、たかだか2年で亡くなってしまった理由も、納得できる。

 

もちろん、本人や家族にとっては、今さら理由がわかっても、納得のいかない話ではある。

 

この問題は、国内の医師からも指摘され始めているから、近い将来、徹底検証されることになるだろう。

 

 

 しかし、医学の世界では、ある日突然、今まで常識だったことが、非常識に変わってしまうことは珍しくない。

 

言い換えれば、それが医学の進歩となるわけだが、患者の立場であれば、そのタイミング次第では、逆に無念さを感じる場面も多い。

 

それは仕方のないことではあろうが、できることなら、皆が進歩の先端で医療を受けられるように、と願うばかりである。
                             (花山 水清)

 

 

 

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