【ハナヤマ通信】369 女性ホルモンの低下が骨のズレを促進する
先日、ヒザの痛みを訴える60代の女性が来院された。
整形外科での診断では、変形性膝関節症だから手術が必要だといわれたそうだ。
しかし、ヒザ痛の発症時に、打撲などといった外的な要因がなければ、その原因はほぼ腰椎のズレなのである。
そのため、腰椎のズレさえ戻せば、ヒザの痛みも解消する。
こんなことは、神経のしくみを理解していれば、ごく当たり前の発想である。
ところが整形外科では、全く違った常識が支配している。
変形性膝関節症を代表とする変形性関節症の主な原因は、軟骨のすり減りだと考えるのだ。
そこで整形外科では、必ずX線で関節の軟骨のすり減り具合を調べる。
軟骨そのものはX線画像には写らないので、患者には、「軟骨がすり減って関節の隙間が狭くなっているから、それが痛みの原因だ」と説明する。
だが、関節に問題があるとしても、それは結果であって原因ではない。
それなのに、全く見当違いの治療をする。
だから、治らない。
整形外科の世界では、そんな見当違いを60年以上も続けており、今現在も世界中の研究者が、軟骨のすり減りにとらわれているのだ。
変形性関節症の原因については、当メールマガジンでは10年以上も同じ説明を繰り返してきたので、これ以上の話はしない。
今回来院された女性も、原因となっている腰椎のズレを矯正することでヒザ痛は解消し、手術の必要などなくなった。
これでメデタシメデタシ、といいたいところだが、人体のメカニズムはそのような単純な話ばかりではなかった。
腰椎のズレを戻した途端、彼女の体に大きな変化が現れたのだ。
みるみるうちに顔と手が真っ赤になり、全身から汗が吹き出した。
本人も「暑い、暑い」といって、まるで更年期障害のような症状だ。
骨のズレを戻して、体調が急変するのは珍しいことではない。
何らかの持病があったり、薬を服用している人ならなおさらだ。
だからこそ、施術には細心の注意が必要なのである。
彼女の場合も、橋本病の患者であることが、急激な体調変化の理由だったようだ。
橋本病とは、自己免疫の異常によって起こる甲状腺疾患の一つで、甲状腺の機能が低下してしまう病気である。
甲状腺は体の代謝を司る内分泌器官であるから、橋本病のように甲状腺機能が低下すると、体温が下がったり、汗が出にくくなったりするのだ。
ところが、彼女の体に現れた突然の変化は、橋本病とは正反対で、甲状腺機能が亢進した状態である。
彼女にとって、甲状腺の機能が亢進するのは好ましいことではあるが、ホルモン濃度の急激な変化は危険なことなので、手放しで喜ぶわけにはいかない。
私はヒヤリとしたが、しばらく安静にしていてもらったら、彼女の症状は落ち着いた。
それでは、骨のズレの解消と甲状腺機能の亢進には、一体どのような関係があるのだろうか。
そこで、骨のズレが甲状腺ホルモンに対して、どのように作用しているのか、順を追って考えてみよう。
まず、骨がズレると、そのズレた骨が血管を機械的に圧迫することで、血流が阻害される。
また、ズレた骨が交感神経を刺激して、アドレナリンが分泌される。
すると、さらに血管は収縮し、ますます血流が阻害される。
その状態で骨のズレを戻すと、瞬時に血流が回復する。
この急激な血流の回復は、血管拡張と同じ作用をする。
その結果、血液は重力に従って一気に下がる。
その際、脳は一時的に虚血状態に陥ってしまう。
本来、血中のホルモン濃度は、体のホメオスタシス(恒常性維持機能)によって、常に一定に保たれるようになっている。
だが、骨のズレを解消したことで起きる、この一時的な脳の虚血状態を、脳下垂体は血中の甲状腺ホルモンの異常な低下だと判断してしまうのだ。
すると、ホメオスタシスが働いて、血中に甲状腺ホルモンが放出される。
このようなメカニズムで、彼女の体に突然、甲状腺機能亢進の症状が現れたのではないだろうか。
では、ここでもう一歩、話を進めてみたい。
彼女は橋本病だったが、実は橋本病の患者でなくても、骨のズレを戻した途端、甲状腺機能亢進のような反応を示す人は、何人もいたのだ。
しかもそういう反応は、圧倒的に女性に多い。
そして、橋本病のような甲状腺疾患も、女性に多い病気である。
また、変形性膝関節症も、女性に多く見られることが知られている。
つまり、これらの病気は全て、女性ホルモンが関与しているのである。
女性ホルモンは、骨のズレとの関係が非常に深いホルモンである。
なぜかはわからないが、女性ホルモンの分泌が低下すると、極端に骨がズレやすくなるようなのだ。
そのため、月経前や月経中、閉経後など、女性ホルモンが低下したときに、頭痛や腰痛になる人が多い。
もちろん、頭痛や腰痛は骨のズレが原因である。
しかし、女性ホルモン、特にエストロゲンの低下が、骨のズレを助長することによって、それらの症状が起こりやすくなるようだ。
これと同様のメカニズムで、変形性膝関節症も、閉経後の女性に多く発症していると考えられるのである。
また、腰椎のズレは、女性ホルモンを分泌する卵巣の機能そのものにも影響する。
しかもこの場合、腰椎のズレは、エストロゲンの分泌を過剰に促進する作用をしているようなのだ。
このことからは、エストロゲンの低下がズレを助長するのも、ある種のホメオスタシスの働きなのかもしれないと思うことがあるが、これは断言はできない。
いずれにしても、腰椎のズレを矯正すれば、卵巣機能は正常になり、エストロゲンの過剰分泌も収まる。
ところが、ズレを戻したことで、エストロゲンが急激に低下して、それが脳下垂体にフィードバックされると、いきなりのぼせや多汗などといった、更年期障害と同じ症状が出現することがある。
このような更年期障害の症状と、甲状腺機能亢進の症状がよく似ていることも興味深い。
さて、腰椎のズレからくるヒザの痛みという末梢での話が、神経伝達やホルモン分泌の異常の話につながり、中枢機能を左右する話にまで広がった。
他にも、腰椎のズレによるエストロゲンの上昇が、腫瘍促進物質として作用し、乳がんの発症リスクを上げてしまうことは、以前、書いた通りである。
このように、単なるヒザの痛みであっても、その原因を突き詰めていけば、さまざまな疾患の成り立ちが、互いに複雑にからみ合っている姿が浮き彫りになってくるのだ。
それにしても、ホルモンや神経伝達のしくみというのは、医学的にも未解明な部分が多くて難しい。
骨のズレが、さまざまな症状を出すしくみを突き止めようとして、ホルモンや神経伝達との関係や、それぞれの物質同士の相関関係、受容体のことまで含めて考えていくと、難解な方程式を複数同時に解いているような気分になる。
この感覚自体は嫌いではないが、私の欲しい答えが見つかるまでには、まだ相当時間がかかりそうだ。
今回の話も、結論というよりは、現状認識の報告に留まる内容ではあるが、これが同じ疑問を持つ人たちにとって、何らかのヒントになることを願っている。
(花山 水清)
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